2013年11月23日

ワルン・最後の楽園(29)

3日前から、夜7時になると羽アリ(ドゥダル=Dedalu)が電灯のまわりを飛び交い始めた。

飛び交うという生易しいものではない。

異常なほど大量発生する。

これは、雨季の始まりを告げるバリの風物詩でもある。

昨夜は、我がマンディ場にドゥダルを求めて大きなトッケイが出現した。

トッケイは、ドゥダルが好物のようだ。

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2×××年

人類が、カプセル時代に入って久しい。
 
地球の大気が極度に汚染され、太陽の陽が射すことがほとんどなくなった。

日光浴、月光浴、森林浴、海水浴という言葉は、すでに死語となり、そんな環境は地球上のどこを探してもない。

屋外は、どこかしこも放射能の危険にさらされているため、大型空気清浄器の整ったカプセル・ドームでしか生活することができない。

首都東京は、とうの昔に廃墟となり瓦礫の山だ。

世界中の廃墟には、放射能に侵された奇形動物たちが棲息している。

瓦礫の上に創られたカプセル・ドームの都市は、ひとたび災害に見舞われれば機能が麻痺してしまう。

人々は都会を離れ、新たな土地を求めて彷徨う。

しかし、新天地も宇宙ステーションのような環境だ。

人々は、透明硬化樹脂で造られた蜂の巣状のカプセル・ハウスに住み、味と香りの付いた栄養剤のピル食品で腹を満たしている。

ピル食品の味は多種多様にあり、一応に人々は満足している。

祝祭日などの特別の日に支給される人造肉を口にすることもできる。

妊娠は、体外受精でおこなわれるのが通常で、幼児は小さな透明プラスチックのカプセルの中で育てられている。

世界人口は、2000年度と比較すると三分の一に減少している。

原因は、戦争と放射能。


カプセル時代の味気ない生活に甘んじている富裕層に、今、もっとも先進と言われ注目されているレストランが中部日本地方ある。

紹介しよう。

店名は「ワルン・最後の楽園」。

インドネシアにあるバリと呼ばれる小さな島の料理を出している。

カプセル・ドームの中に造られた人工的ではあるがインテリアに自然の植物がふんだんに取り入れられ店は、限りなく自然に近い景観が楽しめるように工夫されている。


オーナーのワヤンさん(30)の話では「自然とは何か?」を実体験しに訪れる客がほとんどとのこと。

当店ではまず、入り口で履き物を脱いでいただき、裸足になってもらいます。

足の裏で大地を掴むという経験をして欲しいのです。 

大地を掴む感触が、生きているという実感を呼び起こします。

売り物は、限りなく自然に近い環境です。

食事は楽しむもの。

五感とフィーリングを楽しんでいただけることと思います。

そして当店は、健康にもよいメニューをお出ししております。

値段のほうは少し高くなっていますが、きっと満足してお帰りいただけると考えています。

 
「トッケー、トッケー、トッケー・・・・・・」

くぐもった鳴き声が、店内に響いた。

「今、トッケィ何回鳴いた?」

彼女の質問に「7回だった」と彼は答える。

「トッケィが7回続けて鳴くと幸運がおとずれるんだよ!」

カップルは、幸せそうに顔を見合わせた。

小動物が放し飼いされ、トッケイやチチャッの鳴き声が耳に優しく聞こえる。

「チッチッ」とチチャッが鳴いた。

彼女の顔が「そらね」と言わんばかりに、自慢げに微笑んだ。

会話の途中にチチャッが鳴くと「今の話は神様が認めているよ」ということらしい。

チチャッは、デウィ・サラスワティの化身だ。

デウィ・サラスワティは、学問と芸術の女神。


微風に竹の風鈴が、自然の音を奏でている。

自然の環境音楽が訪れる人の心を癒す。

バナナの葉の皿にのせられて運ばれてくる料理は、無農薬農法による作物から実際に料理されたもの。

見るものの眼を十二分に楽しませてくれる。

食事を飲むものと思っているカプセル・エイジに「ワルン・最後の楽園」の料理は、神秘的に映る。

素手による食事に、訪れる人々はカルチャー・ショックを受ける。

食後のデザートは、目の前の木々から直接もぎ取ってくれる果物のジュース。

夜7時30分から9時まで、日替わりでバリ島の伝統芸能の公演が上演される。

古き昔を忍んで、是非一度あなたも「最後の楽園」を訪れてみてはいかがですか。


大変だ!

トッケイを見ていて、妄想にはハマっていたようだ。

posted by ito-san at 18:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ウブド村徒然記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする