2013年12月10日

映画出演の続き・その弐(31)

残念な出来事が起こった。

日本兵のエキストラは、中国系インドネシア人の学生が演じている。

深谷さん、カズ君、コテツちゃんの出演するシーンには、彼らと共演することがよくある。

休憩時間に学生のひとりが悪戯していたモデルガンが暴発し、近くにいた深谷さんの片眼に火薬があたってしまった。

誰とでもすぐに仲良くなってしまうのが特技かのように、深谷さんはまわりの人間と打ち解けてしまう。

そんな時の事故だと思う。

この日の撮影現場は、コテツちゃんが一緒だった。

ただちに、デンパサールのサングラ病院に運ばれた。

検査入院だ。

私には、コテツちゃんから知らせが入った。

最初に浮かんだのは「眼が不自由になっては、仕事に差し支えるのではないか」ということだった。

深谷さんは、コミックの公募に「アキオ紀行バリ」が入選して漫画家としてデビューしたばかり。

漫画家として将来が多いに楽しみな青年が、インドネシア軍部を誉め称える広報活動のような映画の撮影に参加して失明してしまっては不憫だ。

翌日、カズ君とコテツちゃんと一緒に病室を訪れた。

角膜に傷、角錐に内出血があるそうだ。

本人は元気そうにしていたが、心の中には不安がいっぱいだったろうと思うと、胸が苦しくなった。

サングラー病院での手術は、推薦できるほどの情報がない。

映画製作会社からの傷害保険の保証はない。

話し合ううち、本人がシンガポールの病院に移る意思を現した。

海外青年協力隊でバリに赴任していたA子さんの協力を得て、ことなく移送することができた。

シンガポールでの手術が終わると、深谷さんは日本に帰国した。

リハビリには、半年ほどかかるそうだ。

視力は、少し落ちると言う。



「わるん酔し」のオーナー・竹俣さんの車に便乗してバリ北部シンガラジャに向う。

今回の撮影現場は、シンガラジャだ。

同乗者は、私にコテツちゃん、カズ君とカズ君の奥さん。

プスピタのかおりちゃんとバリ舞踊を習っているゆきちゃんが女優初挑戦で同行している。

久しぶりの遠出で、みんなウキウキ遠足気分。

別組で行動している竹俣さんは、すでにたくさんの場面に出演していた。

タバナン県チャナンサリ村のグスティ・ングラ・ライの実家で、斥候役で活躍したことを話してくれた。

途中にあるゴルフ場に立ち寄って、竹又さんの知人をスカウトしていくことになった。

残念なことに「忙しいから無理です」と断られてしまった。

「私は駄目だが、スリリット村に住む日本人はどうですか」と紹介された。

スリリット村に、ひとりで住んでいる男性がいることに驚いた。

誘うと、喜んで同行してくれた。

シンガラジャ市の外れにある、軍の施設に到着。

別の車で現地入りしたロベルトさん一行と合流する。

こちらの一行は欧米人ばかりだ。

取りあえず、街の中心地まで出て昼食にしよう、ということになった。

Margarana4.jpg

食後、軍舎に戻る。

だだっ広いロビーに、赤いパンチカーペットが用意されていた。

ここが控えの間というわけだ。

カーペットの上に腰をおろし、荷物を近くに置く。

何の説明がないままの待機のため、退屈でしょうがない。

退屈だからと言って、軍舎の中を勝手に徘徊するわけにはいかない。

スパイ容疑で逮捕され、政治犯として刑務所送りになるのは嫌だ。

ダラダラしている我々に、いきなり「エキストラを探せ!」特命が下った。

ヨーロッピアンのエキストラが20名ほど必要なのだそうだ。

必要だからといって、現地調達でいいのかい。

ロベルトさんが、カズ君とコテツちゃんを連れてロビナ・ビーチへ出掛けて行った。

なぜ、出演者がエキストラ調達に走るのかと疑問に思ったが、こういう業界にはこういうこともあるんだろうなと無理矢理納得する。


特命を受けたエキストラ調達隊から聞いた話。

ホテルのプライベート・ビーチに入り込み、砂浜に寝ころんでいる観光客を物色。

この時点で、かなり怪しい奴らだ。

ロベルトさんから「カップルとグループを狙え!」の作戦が下った。

ひとりだと尻込みしていまうが、仲間がいると思い切った行動ができる、というのがロベルトさんの考えだ。

旅先でのエキストラ出演は、思い切った行動なのか?

出演している我々は、無謀な行為なのか?

我々を無謀な行為に誘ったロベルトさんは、何者?

いくつかのクエッションマークが浮かんだ。

「映画に出演しませんか?(英語で)」

老人と子供を省いた、カップルとグループに “ 突撃・出演交渉 ”が始まった。

リゾートに来てのんびりしているところに、いきなりと声を掛けられたら驚くだろうな。

おまけに、カズ君とコテツちゃんは英語が苦手。

ロベルトさんが助け舟を出すまで、2人の説明はどうしていたのだろう。

「オー・マイ・ゴッド」よほど物好きでない限り辞退する状況だ。

物好きヨーロッピアンは、10数名いた。

Margarana5.jpg

パンチカーペットの控えの場で、衣裳を着替える。

ゆきちゃんが「化粧がケバい。これでは娼婦だ!」と憤慨していた。

インドネシアのオカマちゃんの化粧は濃いことが判明。

軍舎の運動場に集合。

運動場にはテントが張られ、記念式典風景になっていた。

テントの中にヨーロッピアンの顔が見える。

ロビナ・ビーチでキャッチしてきた、物好きヨーロッピアン達だろう。

我々日本人は、テントの後方席に座った。

景色を見ているうちに撮影は終わっていた。

このあとすぐに、晩餐会の撮影が官舎内の一室で行われた。

竹又さんとかおりちゃんが政府高官の夫妻役となり、挨拶の場面があった。

かおりちゃんは着物姿だ。

ウブド出発前に女性の着物を持って来てくれと言われたが、着物を持っている日本人なんてそういるものではない。

有り合わせの着物を今、かおりちゃんは着ている。

狭い室内で、各国高官が集うダンスパーティーの様子を撮影。

物好きヨーロッピアン達は、自前の衣装で着飾って大活躍。

ロベルトさんがテナー・サックスを吹いた。

阿南少佐役の私は顔を見せられないので、後ろ姿だけで何役もこなした。


長い一日が終わり、安ホテルに投宿。

ホテルの玄関に、若い娘が数人訪れた。

映画の撮影があるのを聞きつけ、出演者のサインを欲しいと言うことらしい。

彼女たちの勘違いに付き合い、我々にわか役者は、有名人気分でサインをすることになった。

〜その参に続く〜


posted by ito-san at 16:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ウブド村徒然記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする