2014年01月22日

隣家からクラウハンの叫び(72)

土曜日は早く寝床につく。

毎週日曜日には朝8時にウブドを出発して、バリ南部のジンバランまで野球をしに出掛けていくからだ。

そうです、バリにある草野球チームに参加しているのです。

2年間ほど休部していたが、昨年10月から復帰している。


土曜日と日曜日の狭間、深夜2時。

それまで静かだった隣の家から、男性の叫び声が聞こえた。

数人の男性の声が混じって騒がしくなった。

声の感じから喧嘩ではない。

私は、浅い眠りの中でクラウハン(神が降りて来る状態)した声だと冷静に判断している。

隣家の庭には、テガランタン村で新しく始まったヴィラ建築に携わる職人たちの飯場が建っている。

簡素なテント作りの小屋は、ちょうど私の部屋の裏で普段でも話し声が聞こえる。

バリ東部カランアサム地方から出稼ぎに来ている10数人の職人さんが寝起きしているようだ。

クラウハンしたのは、そのひとりだろう。

我が家の鉄扉の揺れる音が聞こえた。

パチュン君が隣の家に行ったのか?

隣家から「アダ・アパ?=なにがあった?」と緊張した声がする。

心配でパチュン君が駆け込んだに違いない。

話し声はしばらく続いたが、やがて静かになった。

バリでは、クラウハンに遭遇する機会はしばしばある。

今夜もそんな夜だろう。

私は、眠りについた。

trance1.jpg

翌日、野球から戻り午睡のあと、パチュン君に昨夜の話をした。

「そう、その頃、私は息子のコマンとテレビを見ていた。大きな声を聞いて、喧嘩だと思い、玄関の鉄扉を閉めに行った」

えっ、閉めにいったんだ。心配で見に行ったんじゃないんだ。

私は心でつぶやく。

「鉄扉が強く揺すられたので、喧嘩の流れが駆け込んで来たのかと、クリス(剣)を手に鉄扉に近づくと、揺すっているのは隣家から逃げて来た犬たちだった」

竹槍を構えた仕草で説明するパチュン君は、苦笑いしている。

正義感が強い割に、こういう時には慎重に行動する。

「コマンは後ろで、いつでも警察に電話ができるように携帯電話を手にしていた」

親子の連携プレイを解説した。

鉄扉の音とパチュン君の行動を知って、私も苦笑い。


バレ・ダンギン(Bale Dangin・屋敷中央にあるあずまや)に腰掛けていたヤンディ君が、昨夜のあらましを教えてくれた。

ヤンディ君は元村長。

事件が起これば出張らなければならない立場に居るが、昨夜の騒動はヤンデェ君の家までは聞こえなかったようだ。

隣家の主人がヤンディ君の家に出向いて、事件の説明した。

「主人の説明では、クラウハンした男性は黒い2人の大男を見たのだそうだ」

黒い大男は悪霊だろう、と私はさとった。

バリは悪霊も神々のひとつだ。

ツーリストがクラウハンをすることは少ないが、バリ人なら往々にしてありうることだ。

幸い私にも、こういった経験はない。

「彼らは儀礼や供物に、心配りが足らなかったのではないのか」とヤンディ君は言う。

さらにニコニコ顔で「テガランタン村には、よそ者を受け付けない精霊が居るからね」と付け加えた。

ビジネスも含めて、よそ者が立ち入るのを嫌うテガランタン村の村人の気持ちを表した言葉に聞こえる。

トイレ、台所など不浄な場所の儀礼を執り行い、供物を捧げることを忘れないように注意を促し、一件落着した。

日曜日の夜から、隣家は静寂を保っている。
posted by ito-san at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | テガランタン村滞在記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする