2014年03月24日

オゴホゴ制作の推移(46)

バリ島には、世界で唯一、ここでしかないだろうと思われる風習がある。

それは「ニュピ祭礼日」だ。

ニュピは、西歴以外にバリに2つある伝統的暦のうちのひとつである、サコ歴の新年。

今年はサコ歴1936年で、西暦の3月31日に当たる。

この日1日、労働(アマティ・カルヤ)、通りへの外出(アマティ・ルルンガン)、火の使用(アマティ・グニ)、殺生(アマティ・ルラングアン)などが禁じられている。

火は、現代では電灯も含まれる。

この4つを守り、精神を集中させ、心を穏やかにし、世界の平和、最高神イダ・サンヒャン・ウィディに祈るのが、バリ人の信仰するヒンドゥーの慣習だ。

これがバリ人だけの話なら、ヒンドゥー教徒って敬虔なんだなと感心するだけだが、この4つの禁止は、バリ島にいるすべての人に義務づけられる。

ヒンドゥー教以外の宗教を信仰するインドネシア人、そして、ツーリストにもかせられる、という世界中でも珍しい祭事だ。

信じられないのは、観光で経済が成り立っている島なのに、この日、国際線の航空便を含む島内すべての交通機関がストップするのだ。

すべての島民が神隠しにあったように、バリ島が沈黙する。

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写真提供者:田尾美野留氏


ニュピ前日(30日)、ウブド王宮前では生贄を捧げ、ムチャル(mecaru=悪魔払い)儀礼が行われる。

冥界のヤマ神が、悪霊ブト・カロ(Bhuta Kala)を地下から追い出し地球を大掃除をするのだ。

家々では家族が、鍋釜など音の出るものを手に、屋敷内の隅々をガンガンと鳴らしながら廻る。

道では、爆竹がうち鳴らされる。

地上にはい出てた悪霊ブト・カロを追い払うのだ。

この儀式は、ングルプック(Ngerupuk)orプングルプガンと呼ばれている。

今でも、バリ人の信仰から切り離せない、邪悪な力を追い払うための儀礼だ。


ニュピ前夜は、ティラム(Telem=暗月)と呼ばれる月が隠れる夜。

夕方になると、各村々ではオゴホゴ(ogoh-ogoh)と呼ばれる張りぼて人形の御輿を担ぎ出す。

張りぼて人形は、さまざまな形の悪魔(Kala)を表現している。

バレガンジュールと呼ばれるシンバルを中心としたガムラン隊の激しい音とともに、オゴホゴが村々を練り歩き四つ筋では威勢良く廻る。

今では、バリ観光のみどころのひとつにあげられる行事となっている。

地上から悪霊ブト・カロを追い出した次の日「ニュピ」には、人々は静寂を保つために4つの禁止を守る。

この星には人間が住んでいないと思わせ、悪霊ブト・カロが戻らないようにするというのがこの儀礼の狙いだ。

練り歩いたオゴホゴの中に、邪悪な力は封じ込められる。

私が訪れた頃(1990年)、オゴホゴは四つ筋や墓地で燃やされていた。

今は、ワンティラン(集会場)に集められ、しばらく展示した後に破棄されるようだ。

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写真提供者:田尾美野留氏

オゴホゴ制作は、ひと月ほど前から始まる。

私が最初に見たのは、割いた竹と針金を骨組みにして金網で胴体が作られていた。

新聞紙を張り合わせて彩色する。

仕上がりはゴツゴツとしたものだった。

2011年のオゴホゴは、細工しやすいのと軽いからか発泡スチロールを部分的に使っているところが多かった。

顔の部分が発泡スチロールで精密に作られていた。

スプレー缶かコンプレサーを使って吹き付け塗装。

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そして今年2014年。

なんと、ほとんど全身を発泡スチロールとウレタン・スポンジで作られていた。

切りクズが目に留まり「吐き気がする! 胸焼けがする!」

「キャー ! 止めてくれ〜!」

これを燃やせば、有毒ガスが発生することは間違いない。

オゴホゴの末路が心配だ。

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バリは観光の島として、右上がりで発展している。

近年は、投資目的の物件も多いと聞く。

発展は近代化をもたらし、近代化は文化を変革させることもある。

変革することが悪いわけではないが、バリの場合、あまり文化が変わることは好ましくないと考える。

ツーリストは、普段着のバリと自然を求めて来ている人が多い。

自然を破壊する行為は、観光資源を枯渇させる。

環境問題に関心を持ち始めた島民が、さまざまなイベントを開催して意識の向上をはかっている。

できれば、オゴホゴも昔ながらの竹で作ってもらいたいと思うのは、ツーリスト(私)のかってな願いだろうか。


posted by ito-san at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | ウブド村徒然記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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