バリ人の家屋は、古くからの慣習にしたがって敷地内の建物の配置が決まっている。
ウブドの場合、聖なる家寺は北東の角に位置し。
人間の儀礼を行うバレ・ダギンは中央東側。
家族の住む棟であるバレ・ダジョーは北面、バレ・ダオーは西面にある。
不浄と言われるトイレや台所は南西隅に建っている。
道に面して門が備えられるが、屋敷のレイアウトはどこも同じというのが興味深い。
3週間ぶり(6月5日)に、スバリ村のグスティ家を訪れた
グスティ家には、門を入って真っすぐの位置にバレ・ダギンに「ジナン=jineng」が建っている。
ジナンに供物が飾られていた。
27年という長い付き合いなのに、初めて見た。
田んぼを持つ家にある米蔵のことをジナンと呼ぶ。
2メーター四方ほどで、四本の柱で支えられた小さな高床式の2階建て。
米は、屋根裏のような2階に収納される。
1階部分はオープンで、あずまやのような佇まい。
家族の憩いの場所になる。
グスティ家では、いつもここでお婆ちゃんが供物を作っている。
私は、訪れるとまずここに腰を下ろし、お婆ちゃん所有のシリー箱から、噛みタバコを一つかみかすめる。
時々、シリー箱の片隅に小銭を隠し入れる。
グスティ君が留守のときは、戻って来るまでのひと時をお婆ちゃんと雑談を楽しむ。
お婆ちゃんは、供物作りの手を休まずに、話に相づちをうってくれる。
横になって午睡を決め込むこともある。
この日は、グスティ君が留守だった。
もちろん私は、噛みタバコを失敬して、お婆ちゃんと雑談をはじめる。
グスティ君が戻って来たので、さっそくジナンの供物について訊ねた。
「今日は、マンタニン=Mantanin」の儀礼があったとの答え。
同じ水路を利用するスバック=水利組合が、稲刈りが終わったあとにする儀礼らしい。
ジナンは、稲の神「デウィ・スリ(Dewi Sri)」を祀る神聖な棟(米蔵)。
右手に聖水の入った壷を持つ、田んぼや稲の女神。
水田のあちこちに、デウィ・スリを祀る祠が建っている。
田植えや稲刈りの始めには、必ず、祠に供物を捧げ儀礼をおこなう。
デウィ・スリは女神だから、田植えは男性の仕事だった。
種まきは、男の仕事というわけだ。
この頃は、人手不足で女性も田植えをするようになった。
バリ島の発展とともに、消えていく慣習がある。
農業を継ぐ跡取りが減っている。
農地が観光施設に変っていく。
屋敷のレイアウトにも変化が見られる。
町中では、土地の有効利用からか、家寺が2〜3階に上げられた。
家屋も2〜3階建ての近代的な建築になってきている。
「観光の島・バリ」として発展していく過程で、観光資源の田んぼや慣習が消滅していく。
しかたがないと言ってしまえば、それまでだ。何か、良いアイデアはないだろうか?
私には、まったく良案は浮かばない。
次世代のバリの若者に期待したい。