只今、22時30分。
「和食・影武者」の大テーブル。
仕事を終えた女将が、スマホを手にしながら、近づいてくる。
「◯◯さんの奥様ってJUNKOさんだったけ?」
「ム〜ん、違ったと思うけど」
突然の問いかけに面食らう私。
「ラインで『今忙しい?』とコメントが入ってきたんだけど。誰だろう?」
スマホには、13日・15:14の表示がある。
「◯◯JUNKOさんって知り合いはいないんだけど。この馴れ馴れしさは知人かもしれないと迷ってあげく『大丈夫ですよ〜』と返信しておいた」
こうしてコメントは続く。
『ちょっと手伝って欲しいんだけど?』
「やっぱり知人の奥様かな。
失礼があってはいけないので『はい、なんでしょう?』と答えた」
『近くのコンビニでBitCashカードを何枚か買ってきて欲しいんだけどいいかな?』
そのコメントを読み上げた時、大テーブル今夜のゲストNBが叫んだ。
「それそれ、それは詐欺だよ!」
その一言に、大テーブルは色めきだった。
特に私は、興奮気味。
オレオレ詐欺などニュースで聞くことはあっても、身近で起きたことはない。
犯罪の匂いがする、生々しいコメントを見るのは初めてだ。
日本で流行っている詐欺が、遠くバリ島ウブドまで飛んできた。
これもネット社会が成せる技か。
女将は、おかしいと気づいて、返事を書いた。
「すみません、やはりお人違いだと思います。
たぶんそうだよなと...と思いながらも、ここまで引っ張ってしまいました。
ごめんなさい!
ちなみに私はバリ島在住の◯◯◯子です」
このコメントは、既読になっている。
「名古屋の◯◯くんの奥様ですよね?」
このコメントが読まれていないところをみると、前文でばれたと感じて引き下がったのだろう。
こうしてコメントは終焉した。
NBが女将に説明している。
私はパソコンで「コンビニでBitCashカード買って欲しい詐欺」とググってみた。
あったあった。
手口のサンプルが貼ってある。
「何してますか?忙しいですか?手伝ってもらってもいいですか?」
「なんでしゃろ?」
「近くのコンビニエンスストアーでweb money のプリペイドカードを買うのを手伝ってもらえますか?」
「4万円分?」
「10000点のカードを6枚買ってください?」
「6万かよ!」
女将に届いたのと、ほとんど同じコメントが交わされている。
ところで「Bit Cashカード」「web money のプリペイドカード」って何?
ウブドのコンビニで、そんなカードが売られているのか。
日本にお住いの方は、すでにご存知なのだろうが、バリ島の田舎に居る私はまったく知らない情報。
念のために、グーグルの記事を掲載した。
携帯電話用の無料通信アプリ「LINE(ライン)」で、何者かがアカウントを乗っ取り、本人が知らない間に知人に金券を要求するという被害が相次いでいる。
登録しているメールアドレスとパスワードを不正に入手しているものとみられ、運営元のLINE株式会社ではパスワードの変更を呼びかけている。
乗っ取りアカウントからのメッセージを受け取った人の証言によると、6月14日と22日に知人2人からほぼ同じメッセージ届いた。
「何をしてますか?忙しいですか?手伝ってもらっていいですか?」というメッセージが届き、そこに返事をすると「近くのコンビニエンスストアでWebMoneyのプリペイドカードを買うのを手伝ってもらえますか?」と要求されたという。
自動応答プログラムなのか、人間がやり取りしているのかは不明だが、4万円もしくは6万円のカードの購入を要求され、カードの番号を写真に撮るように言われたという。
LINE株式会社によると、5月下旬から今月14日までの間に、利用者になりすまして電子マネーの購入を呼びかけるメールが送られるなど不正ログインによる被害が303件あり、そのうち3件で実際に電子マネーを購入してだまし取られる被害があった。
詳しい手口や被害額は確認中という。
この問題は、何らかの方法で不正入手したIDとパスワードを使って、さまざまなサイトにログインを試みる「リスト型アカウントハッキング」によるものとみられている。
複数のサービスで同じIDとパスワードを使っていると乗っ取られやすいとされる。
ドワンゴの会員制動画サイト「ニコニコ動画」やSNSサイトの「ミクシィ」でも不正アクセスの被害が相次いでおり、同じメールアドレスとパスワードと複数のサイトで使い回しているユーザーは、パスワードを変更することをお勧めしたい。
詐欺だと知った女将が、深夜に送ったコメントは。
「いま友人から聞きましたが、あなた詐欺師ですね?」
これで女将の気を収まったようだ。
それにしても、次から次へと新手の詐欺が考案されるもんだね。
世の中が、荒んでいる証拠だ。
詐欺が横行して、疑心暗鬼を生ずる。
他人を信用できない、住みにくい社会になっていく。