朝市(Pasar Pagi)と言えば、バリ人の台所だ。
村々には、必ずと言ってよいほど朝市が開かれている。
大きな町では、大きな朝市(Pasar Pagi)が開かれている。
州都デンパサールには及ばないが、ウブドにも、この地域で最大の朝市が立つ。
ウブドの朝市は、さまざまな形で紹介されているので、ご存知の人も多いだろう。
そんなわけで、今回は、小さな朝市を見学したい。
もっとも適していると思われるのが、プンゴセカン村の朝市だ。
もしかすると、古くから受け継がれている朝市の風景を感じられるかもしれないと考えた。
毎朝6時頃から9時ころまで開かれる、と知人が情報をくれた。
7時に到着できるように、早起きしてプンゴセカン村に向かった。
画家グスティ・サナさんの家の前に、無断でバイクを止めさせてもらう。
サナ家の長男コンピアン君からバリ舞踊を習ったり、「アパ?情報センター」主催のバリ風結婚式の会場として利用させてもらったり、舞踊&絵画の体験の紹介をさせてもらった関係がある。
勝手知ったる他人の家。
広場には、供物用の花と葉、取り立て野菜と果物、朝食の具や弁当、新鮮鶏肉などの屋台店が、肩を寄せ合って軒を連ねている。
古い動画には、風呂で使うような低い椅子に腰を下ろした売り子の前に、やはり低に机に品物を並べての商売だった。
上半身裸の女性の姿が見られるが、さすがに今の時代にそれはない。
屋台の設備は様変わりしたが、冷蔵庫のなかった時代から変わらない品揃えだろう。
その日に使い切る品々が並んでいる。
売り手は、村内からがほとんど。
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると見知った顔があった。
「和食・影武者」の厨房スタップの女性だ。
親戚のおばさんの弁当屋を手伝っていると言う。
買い物客は、歩いて来ている村人たちだ。
村人が作った農作物や家で飼っていた鶏肉などを持って来たのだろう。
近隣の村からも駆けつけている人売り手も、少しはいるだろう。
もしかすると、古く物々交換の時代から、連綿と続いているのかもしれない。
工芸の得意な者は、カゴやゴザなどの生活雑貨を店頭に並べていたかもしれない。
村人による、村人のための朝市として、今なお続いている。
賑わいを見て、スーパーマーケットの出店に危惧していた私は、胸をなでおろしたのであった。
金銭的な活動を行っていない私の行動範囲は、まったく村から出なくてよい。
村人も、他の村に行くことは少なかっただろう。
朝市で買い物をして、あとは行商が通るのを待っていれば、それで充分かもしれない。
バンジャールには、スーパーマーケットもコンビニもない。
バンジャールとは、村の最小単位・集落のこと。
ウブドは、2000年初頭からスーパーマーケット&コンビニの出店が相次いだ。
便利になることは良いことだが、ウブドらしさが失われていくようでもあり、複雑な気分だ。
経済的に打撃をうけた村人も多かったことだろう。
プンゴセカン村には、村はずれにコンビニあるが、共存しているようにみえる。
日本の小さな村でも、地域に根ざした相互扶助な商売が増えて欲しいと思っている今日この頃。
帰路の途中に、マウス・マスクをしていないことに気づいた。
村人のほとんどがマスクをしているのに、私としたことが、この日に限って忘れて出かけてしまった。
家に着くまで、冷や汗が流れていた。