2013年05月18日

椰子の実の話(29)

パチュン家の庭には、様々な種類の木が繁っている。

私は時々、庭を徘徊する。

記憶をなくした徘徊老人ではないので、ご心配なく。

私が庭を散歩すると、愛猫チビタが部屋から出て来るのを知っている。

チビタが、この家に慣れてもらうために、私は出来るだけ部屋から遠いところを散歩するようにしている。

案の定、チビタは庭の中央まで出て来た。


私は眼の前の、黄色の実がついた背の低い椰子の木(インドネシア語でクラパ=kelapa)を見上げている。

チビタが、足下にまつわりつく。

パチュン君が庭木に水を撒きに出て来た。

私はパチュン君に「この黄色い実がついたニュー(nyuh=クラパのバリ語)は、ニュー・クニン(kuning)だよね?」と、知ったかぶりをして訊いた。

ウブドの南にあるニュー・クニン村は、黄色の椰子の意味だと聞いたことがある。

「そう、ニュー・クニンは、ニュー・ガデン(gading)とも言う」と教えてくれた。

「ニュー・ガデンは、モンキーフォレスト通りの広場前にあるバンガローの名前だね」

「そう、以前、ベンディのレストランがあったところだ。もう、移転したけど」

ベンディさんは、テガランタン村の出身で、ビジネスで成功している人物の一人だ。


「そして、これがニュー・ガダン(Gadang)で、こちらの薄い緑色したのはニュー・ブラン(bulan)だよ」
パチュン君は、左右の椰子の木を指差して教えてくれた。

「えっ、これ種類が違うんだ。私には、どれも同じに見えるけど」

「バリには、私の知る限りで7種類の椰子の木があるよ。きっともっとあると思う。地霊や邪悪な力を祓うための儀礼・ムチャル/チャル=Mecaru/Caruでは、5種類の椰子の実を使う」とパチュン君。


バリのヒンドゥーの教義では、東西南北とその中心という5つの方位が、それぞれの方位に対応する神、神の武器(神器)、色、音、整数などと結びついたかたちで、宇宙の秩序原理をなすという考えがある。この五元論をパンチョ・デワォ=Panca Dewa(デワォは神)という。(吉田竹也著「バリ宗教ハンドバック」より)

記憶が薄れたので「バリ宗教ハンドバック」を見ながら確認します。

方位の神と色は、カジョ(山側)はウィシヌ神で黒、クロッド(海側)はブラフマ神で赤、

カンギン(右)はイスワロ神で白、カウ(左)はマハデワ神で黄、

プサ(中央)はシワォ神で混合色となる。

色は、パンチョ・ワルナ=panca warna(パンチョ=5、ワルナ=色、マンチャ=manca・ワルナとも言う)と言われ、パチュン君の言うようにムチャルに使われる。

生け贄に使われる鶏がこの5色を用意されると聞いていたが、ムチャルに使われる椰子の実が5色あったとは知らなかった。5色のお米も見たような気がする。

音は、ディン・ドン・デン・ダン・ドゥンだったと思うけど、方位がわからない。

誰か教えてください。


「日本食料理店・影武者」のスタッフ、ダユーにこの話をすると、次の日、5つのニューを用意しれくれた。

nyuh.jpg

カジョ(ウブドでは北・写真では上)はニュー・ガダン&ムルン(mulung)。クロッド(ウブドでは南・写真では下)はニュー・ウダン(udang)、

カンギン(ウブドでは東・写真では右)はニュー・ブラン&プティ(putih)。カウ(ウブドでは西・写真では左)はニュー・ガデン&クニン、

プサ(中央)はニュー・スダマラ(sudamala)。

5色と言っても、そのものズバリの色ではなかった。

それは、役目としての色分けのようだ。

果汁は、味音痴の私にはどれもポカリスエットに似た味だった。


大きなムチャルでは9種の椰子の実を使うと言われる。

これは、ナワォ・サンゴ(Nawa Sangga)と言われる九元論だ。

さらに十一元論がある。

いったいどこに、そんなたくさんの種類の椰子があるのだろう。

私は、見たことがない。きっと、探すのはたいへんなことだろう。

いつの時代から使われるようになったかは定かではない。


ムチャルに使われるニューは古くからバリにあった種類で、オランダ植民地時代にプランテーションとして輸入されたと思われる12メートル以上に成長する背の高いニューはムチャルには使われない。

ひとつ謎が解けると、そこからまだひとつ謎が浮かび上がる。

私にとってバリの不思議は、いつまでたっても尽きることがない。

わかり難い説明になってしまったが、これでおしまいにする。

久しぶりの勉強で、こめかみあたりにシコリができそうだ。

そして、愛猫チビタは、私の座布団を占領して小さな寝息をたてている。


※「ムチャル/チャル」「パンチョ・デワォ」について詳しく知りたい人は、吉田竹也著「バリ宗教ハンドバック」を参照ください。アパ?、影武者、アンカサでRp50,000-にて販売しております。

極楽通信・UBUD右向き三角1極楽通信右向き三角1椰子の木はスーパーマン
も読んでください。


posted by ito-san at 15:37| Comment(2) | TrackBack(0) | テガランタン村滞在記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは〜
いつも楽しみに拝見しています。

わあ椰子の種類ってそんなに沢山あるんですね!
全然知りませんでした。

チビタちゃんが早くお家に慣れるとイイですねっ。
うちのチビたんは私のベッドの下で
まさか死んでないよね?と心配させるのが目的の如く
眠りこける毎日です。
Posted by ちびたん at 2013年05月20日 17:07
ちびたさん
愛猫チビタは、只今、先住猫レーシーとニアミスしながらも居住地域を広めつついます。
Posted by ito-san at 2013年05月27日 16:54
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