私は時々、庭を徘徊する。
記憶をなくした徘徊老人ではないので、ご心配なく。
私が庭を散歩すると、愛猫チビタが部屋から出て来るのを知っている。
チビタが、この家に慣れてもらうために、私は出来るだけ部屋から遠いところを散歩するようにしている。
案の定、チビタは庭の中央まで出て来た。
私は眼の前の、黄色の実がついた背の低い椰子の木(インドネシア語でクラパ=kelapa)を見上げている。
チビタが、足下にまつわりつく。
パチュン君が庭木に水を撒きに出て来た。
私はパチュン君に「この黄色い実がついたニュー(nyuh=クラパのバリ語)は、ニュー・クニン(kuning)だよね?」と、知ったかぶりをして訊いた。
ウブドの南にあるニュー・クニン村は、黄色の椰子の意味だと聞いたことがある。
「そう、ニュー・クニンは、ニュー・ガデン(gading)とも言う」と教えてくれた。
「ニュー・ガデンは、モンキーフォレスト通りの広場前にあるバンガローの名前だね」
「そう、以前、ベンディのレストランがあったところだ。もう、移転したけど」
ベンディさんは、テガランタン村の出身で、ビジネスで成功している人物の一人だ。
「そして、これがニュー・ガダン(Gadang)で、こちらの薄い緑色したのはニュー・ブラン(bulan)だよ」
パチュン君は、左右の椰子の木を指差して教えてくれた。
「えっ、これ種類が違うんだ。私には、どれも同じに見えるけど」
「バリには、私の知る限りで7種類の椰子の木があるよ。きっともっとあると思う。地霊や邪悪な力を祓うための儀礼・ムチャル/チャル=Mecaru/Caruでは、5種類の椰子の実を使う」とパチュン君。
バリのヒンドゥーの教義では、東西南北とその中心という5つの方位が、それぞれの方位に対応する神、神の武器(神器)、色、音、整数などと結びついたかたちで、宇宙の秩序原理をなすという考えがある。この五元論をパンチョ・デワォ=Panca Dewa(デワォは神)という。(吉田竹也著「バリ宗教ハンドバック」より)
記憶が薄れたので「バリ宗教ハンドバック」を見ながら確認します。
方位の神と色は、カジョ(山側)はウィシヌ神で黒、クロッド(海側)はブラフマ神で赤、
カンギン(右)はイスワロ神で白、カウ(左)はマハデワ神で黄、
プサ(中央)はシワォ神で混合色となる。
色は、パンチョ・ワルナ=panca warna(パンチョ=5、ワルナ=色、マンチャ=manca・ワルナとも言う)と言われ、パチュン君の言うようにムチャルに使われる。
生け贄に使われる鶏がこの5色を用意されると聞いていたが、ムチャルに使われる椰子の実が5色あったとは知らなかった。5色のお米も見たような気がする。
音は、ディン・ドン・デン・ダン・ドゥンだったと思うけど、方位がわからない。
誰か教えてください。
「日本食料理店・影武者」のスタッフ、ダユーにこの話をすると、次の日、5つのニューを用意しれくれた。
カジョ(ウブドでは北・写真では上)はニュー・ガダン&ムルン(mulung)。クロッド(ウブドでは南・写真では下)はニュー・ウダン(udang)、
カンギン(ウブドでは東・写真では右)はニュー・ブラン&プティ(putih)。カウ(ウブドでは西・写真では左)はニュー・ガデン&クニン、
プサ(中央)はニュー・スダマラ(sudamala)。
5色と言っても、そのものズバリの色ではなかった。
それは、役目としての色分けのようだ。
果汁は、味音痴の私にはどれもポカリスエットに似た味だった。
大きなムチャルでは9種の椰子の実を使うと言われる。
これは、ナワォ・サンゴ(Nawa Sangga)と言われる九元論だ。
さらに十一元論がある。
いったいどこに、そんなたくさんの種類の椰子があるのだろう。
私は、見たことがない。きっと、探すのはたいへんなことだろう。
いつの時代から使われるようになったかは定かではない。
ムチャルに使われるニューは古くからバリにあった種類で、オランダ植民地時代にプランテーションとして輸入されたと思われる12メートル以上に成長する背の高いニューはムチャルには使われない。
ひとつ謎が解けると、そこからまだひとつ謎が浮かび上がる。
私にとってバリの不思議は、いつまでたっても尽きることがない。
わかり難い説明になってしまったが、これでおしまいにする。
久しぶりの勉強で、こめかみあたりにシコリができそうだ。
そして、愛猫チビタは、私の座布団を占領して小さな寝息をたてている。
※「ムチャル/チャル」「パンチョ・デワォ」について詳しく知りたい人は、吉田竹也著「バリ宗教ハンドバック」を参照ください。アパ?、影武者、アンカサでRp50,000-にて販売しております。
※極楽通信・UBUD


も読んでください。
いつも楽しみに拝見しています。
わあ椰子の種類ってそんなに沢山あるんですね!
全然知りませんでした。
チビタちゃんが早くお家に慣れるとイイですねっ。
うちのチビたんは私のベッドの下で
まさか死んでないよね?と心配させるのが目的の如く
眠りこける毎日です。
愛猫チビタは、只今、先住猫レーシーとニアミスしながらも居住地域を広めつついます。