運び屋は、名古屋の高木さん。
これで煩わしいT型カミソリでのひげ剃り作業から開放される。
冒頭をお借りして、ご両人にお礼を述べさせていただきます。
◇
雨季の終わりがけは、マンギス(manggis)の季節のようだ。
シーズンによってフルーツが違うのは季節感があっていい。
この時期、パチュン家のマンギスの木は果実をたくさんつける。
私のテラスにある大テーブル上のガラス器に、毎日のようにマンギスが盛られる。
果実を採るために、木に登るのがこの頃の日課になっているパチュン君。
「渓谷沿いの木々が切られ見通しがよくなったので、怖くて天辺まで登れなくなった」とぼやいている。
約束通り7日に、ルアック・ヴィラ・スパの現場で「ウパチャラ・ムチャル(お祓いの儀礼)」が行われた。
オーナーはジャカルタに住む中華系インドネシア人で、職人はジャワ人だが、ここはバリ。
バリのヒンドゥー教に従って、儀礼は遂行される。
たくさんの供物が用意された。
プマンク(僧侶)は、初代・影武者を建てた大工の棟梁だった。
渓谷に向かって、工事の無事を願い祝詞をあげた。
これで、安心だ。
翌朝、パチュン君の目の前で、ムチャルに使われた「トゥトゥアン=Tutuan」と呼ばれる祠が渓谷に飛び込むように落ちていった。
写真の右隅に写っている、白い布が巻かれた竹製の祠です。
大人の背丈ほどあるトゥトゥアンが、頭から渓谷に向かって落ちて行く姿を想像した。
これは笑い事ではない。
私の背中に悪寒が走った。
もちろん、早々にトゥトゥアンは作り直された。
同じ日の夕方、不思議な事件が起きた。
テガランタン村のイダ・バグース氏がハンドルを握る車がサクティ橋の南を通りかかった時、不穏の音を伴って車体が落ちた。
車は止まったが、タイヤが一つ渓谷に向かって転がっていった。
タイヤは飛び込むようにして、渓谷に落ちていったそうだ。
パチュン君は見て来たように説明してくれた。
渓谷は、パチュン家の裏と同じ渓谷だ。
ブラフマ(高僧)階層のイダ・バグース家は、供物作りのプロだ。
現場の供物は、イダ・バグース家から仕入れたものだった。
この2つの事件に、繋がりを感じる。
ここは、神々の棲むバリ。
精霊からのメッセージか?
超怖い!
これって妄想。
メッセージの内容は?
取り敢えず、供物を欠かさないように心掛けようということになった。
職人が入ったのは、3日後の昼近く。
5人の職人が、猫の額で掘削工事を開始した。
猫の額については「これは “妖怪神隠し” の仕業か?(78)」を読んでください。
サクティ橋は、架橋工事の途中、一度崖崩れを起こしている。
そんなことで私は、今回の工事現場の崖崩れが心配で、毎日覗くことに決めた。
私が覗いたからと言って、事故がなくなるわけではないのだが。
なんとなく気になるので。
サクティ橋工事で、作業中何人かのケガ人が出、亡くなった人もいると聴いている。
架橋現場だから、往々にして事故はある。
現場からケガ人がでないことを願っている。
ルアック側からバリ人スタッフが毎日、トゥトゥアン祭壇に神々のための供物を、そして、地霊の供物を地面に捧げている。
4日後に、パチュン君からこんな話を聴いた。
話していいものか躊躇しながらも語ってくれた。
35年ほど前、イダ・バグース家の家長が乗る車が渓谷に落ちた。
運転していたジャワ人は助かったが、父親は亡くなった。
場所は、現在のサクティ橋あたり。
これも、なにか因縁ぽい。
こうやって、バリの不思議を信じようとする私がいる。

