家の前が騒がしい。
立ち話をする人の声が聞こえる。
もしかして・・・・・・ポリスか?
私には、心当たりがあった。
それは昨夜、鳩小屋の下に古くなったハムを捨てたことだ。
鳩か犬が食べてくれればと、軽い気持ちで捨てた。
それが問題になっているのかもしれない。
毎週火曜日と金曜日の午前中にゴミ回収車が廻り、各家の前に出されたゴミ袋をピックアップしていく。
牛、馬、犬のウンコは、匂いが鼻につくほどそこらじゅうに落ちてるが、人が生み出すゴミはない。
外にゴミを捨てるフトドキモノは、この町内にはいないだろう。
潔癖な町民が通報した、と考えられる。
恐る恐るカーテンを引いた。
ガラス窓の向こうにひとりのポリスが立っているのが見えた。
ゴミを捨てた近くだ。
ポリスが私の顔を見届け、近づいて来た。
バイクで巡回している見覚えのあるポリスだった。
まずいことになったゾ。
何か言っている。
私は窓を開けた。
・・・・・沈黙。
しばらくして、ポリスは、手にしていたスマホとアダプターを私に見せた。
私は合点した。
彼は、スマホを充電したいのだ。
私は笑顔を見せて、アダプターをコンセントに差し込んだ。
考えてみれば、私を取り調べるなら、扉を叩くはず。
だったらナゼ。
立ち話するポリスの数が、いつもより多いのも気になる。
外に出ると、見かけない車が沿道に並んでいた。
救急車に、緑の白バイも数台止まっている。
目の前にあるサッカー場には、銃を持ったポリスが警備体勢で立っている。
これは、ただごとではない。
私は、ジュンペイさんの家に飛び込んで、状況の説明を受けた。
午後1時に、コロンビアの大統領がヘリコプターで訪サレントするのだそうだ。
「ココラ渓谷見学じゃないかな」と言う。
ヘリコプターがサッカー場に降りるということか。
ゲリラが多発する国の大統領だというのに、それにしては警備体制がユルいのじゃないの。
沿道で、歓迎の小旗を振らなくていいのか?
「人気がない大統領だから」とジュンペイさんは言う。
人気がないにしても、大統領がヘリコプターで降り立つというスチュエーションは滅多にあることではない。
それも、我が家の目の前に。
この決定的瞬間を動画で撮ることにした。
大統領にビザ取得を直訴して、恩恵にあずかれないかな、なんてことも考えている。
藁にもすがる思いで、すがってみたら上手くいくかも。
否否、すがっている時に、銃殺されるのが落ちだよね。
1時は、とうに過ぎている。
ヘリコプターの音は聞こえてこない。
2時を過ぎた頃、発煙筒が焚かれた。
すぐに、ヘリコプターの音が聞こえてきた。
いよいよ大統領の到着だ。
軍用ヘリコプターが、2機降下した。
1機目は、関係者か?
2機目に大統領夫妻が乗っていたようだ。
大統領を乗せた車は、どこか知らない目的地に向かって去っていった。
1時間ほどで車は戻り、軍用ヘリコプターは飛び立って行った。
翌日、ジュンペイさんが「ご免なさい」と謝ってきた。
どうやら昨日の訪サレントは、大統領じゃなくて副大統領だったようだ。
副大統領も、大統領と同様に人気のない人物なんだね。
時間の余裕がありましたら、動画2本も御覧下さい。