2017年06月08日

稲の神「デウィ・スリ」を祀る神聖な棟(134)

バリ人の家屋は、古くからの慣習にしたがって敷地内の建物の配置が決まっている。

ウブドの場合、聖なる家寺は北東の角に位置し。

人間の儀礼を行うバレ・ダギンは中央東側。

家族の住む棟であるバレ・ダジョーは北面、バレ・ダオーは西面にある。

不浄と言われるトイレや台所は南西隅に建っている。

道に面して門が備えられるが、屋敷のレイアウトはどこも同じというのが興味深い。

家屋レイアウト1.jpg
「バリ島ウブド 楽園の散歩道」より


3週間ぶり(6月5日)に、スバリ村のグスティ家を訪れた

グスティ家には、門を入って真っすぐの位置にバレ・ダギンに「ジナン=jineng」が建っている。

ジナンに供物が飾られていた。

27年という長い付き合いなのに、初めて見た。

田んぼを持つ家にある米蔵のことをジナンと呼ぶ。

2メーター四方ほどで、四本の柱で支えられた小さな高床式の2階建て。

米は、屋根裏のような2階に収納される。

1階部分はオープンで、あずまやのような佇まい。

家族の憩いの場所になる。

グスティ家では、いつもここでお婆ちゃんが供物を作っている。

私は、訪れるとまずここに腰を下ろし、お婆ちゃん所有のシリー箱から、噛みタバコを一つかみかすめる。

時々、シリー箱の片隅に小銭を隠し入れる。

グスティ君が留守のときは、戻って来るまでのひと時をお婆ちゃんと雑談を楽しむ。

お婆ちゃんは、供物作りの手を休まずに、話に相づちをうってくれる。

横になって午睡を決め込むこともある。

この日は、グスティ君が留守だった。

もちろん私は、噛みタバコを失敬して、お婆ちゃんと雑談をはじめる。

jineng.jpg
新築される前は、アランアラン葺きの屋根だった


グスティ君が戻って来たので、さっそくジナンの供物について訊ねた。

「今日は、マンタニン=Mantanin」の儀礼があったとの答え。

同じ水路を利用するスバック=水利組合が、稲刈りが終わったあとにする儀礼らしい。

ジナンは、稲の神「デウィ・スリ(Dewi Sri)」を祀る神聖な棟(米蔵)。

右手に聖水の入った壷を持つ、田んぼや稲の女神。

水田のあちこちに、デウィ・スリを祀る祠が建っている。

田植えや稲刈りの始めには、必ず、祠に供物を捧げ儀礼をおこなう。

祠.jpg
田んぼの隅に建っているいる祠


デウィ・スリは女神だから、田植えは男性の仕事だった。

種まきは、男の仕事というわけだ。

この頃は、人手不足で女性も田植えをするようになった。

バリ島の発展とともに、消えていく慣習がある。

農業を継ぐ跡取りが減っている。

農地が観光施設に変っていく。

屋敷のレイアウトにも変化が見られる。

町中では、土地の有効利用からか、家寺が2〜3階に上げられた。

家屋も2〜3階建ての近代的な建築になってきている。

「観光の島・バリ」として発展していく過程で、観光資源の田んぼや慣習が消滅していく。

しかたがないと言ってしまえば、それまでだ。 何か、良いアイデアはないだろうか?

私には、まったく良案は浮かばない。

次世代のバリの若者に期待したい。


posted by ito-san at 16:03| Comment(0) | TrackBack(0) | ウブド村帰郷記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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