今回は「ニュピ」についてのウンチクを少々語ります。
ウンチク(蘊蓄)の漢字が、読めない書けないので、カタカナにしました。
バリ島民は、世界共通の西暦(グレゴリオ暦)のほかに、古くから伝わる独自の暦を使っている。
それは、宗教儀礼や日々の供物を捧げる時の大切な目安となっている。
独自の暦には2種類あり、ひとつをウク暦、もうひとつをサコ暦と呼んでいる。
1343年、バリはマジャパイト王朝によって征服され、16世紀のゲルゲル王朝時代に、ジャワ・ヒンドゥー文化の影響を強く受けるに従い、ジャワ・バリ暦と言われるウク暦が中心となっていった。
征服される以前に建立された寺院の多くは、サコ暦に従って祭礼が行われている。
サコ暦は、インドが起源と考えられ、「釈迦」に由来するとも言われる。
西暦78年(79年という説もある)が元年とされ、例えば、今が西暦2019年だどとすると、78を引いた数サコ暦となる。
今年は、サコ暦の1941年。
サコ暦の1年は、353日、355日あるいは356日で巡ってくる。
ひと月は、約29日半なので、数年に1度のうるう月がある。
1年は、12のサシー=月(sasih)に分かれている。
うるう月では足らないので、何年かごとのうるう月を設けている。
2016年には13ヶ月あった。
第11番目の月・Sasih Jiyestha(雨季の終わり)と、第12番目の月・Sasih Sadha(乾季の始まり)の間に、「Sasih Mala Jiyesta」
ニュピは「サコ暦」最大の祭礼のこと。
月が隠れる・暗月(ブラン・ティラム・bulan tilem)の翌日から新しい月が始まり、次の暗月までをひと月とする。
満月と暗月の日には、普段より多めに供物が捧げられる。
サコ暦は太陰暦で、月のサイクルに合わせた暦。
第1番目の月(Sasih Kasa =サシー・カソ)は、西暦の6月頃。
第7番目の月(Sasih kepitu=サシー・クピトゥ・西暦の12月頃)の暗月前日に行われる祭礼が「Hari Siwaratri(シワラトリ)」。
第10番目の月(Sasih kadasa=サシー・カダソ)の第1日目が、ニュピとなる。
雨期の終わる、西暦の3月か4月に巡ってくる。
1年の穢れを払い浄める祭儀が、ニュピだ。
ニュピ前日の暗月の日に、冥界のヤマ神が大掃除をするので、悪霊ブト・カロ(Bhuta Kala)が地界から追い出され、地上にはい出て来る。
バリ中のすべての村の公共広場では、僧侶によるムチャル(悪魔払い)儀礼が執り行われる。
ウブドではスゥエタ通りの王宮前に祭壇が設けられ、儀礼が行われる。
夕方になると、家々では家族総出で鍋釜など音の出るものを手に、屋敷内の隅々をガンガンと鳴らしながら廻る。
これは、ングルプック=Ngerupuk(プングルプガン)と呼ばれる儀礼。
人間の生活を乱そうとする悪霊を追い払うためだ。
陽が落ちると、オゴホゴ(Ogoh-ogoh)と呼ばれる、張りぼて人形の御輿が村を練り歩く。
この行事が始まったのは新しく、インドネシア独立後(1945年)と聞く。
こうして、地上から悪霊ブト・カロを追い払った翌日がニュピ。
ニュピは、バリ語のスピ(Sepi=静かな)が語源で「静寂の日」とも言われる。
いかにも「この島には誰もいません」と言うように、生活の匂いを感じさせないよう家に引きこもり、悪霊ブト・カロに見つからないように静かに過ごす。
この日は、労働(アマティ・カルヤ)、通りへの外出(アマティ・ルルンガン)、火の使用(アマティ・グニ)、殺生(アマティ・ルラングアン)などが禁じられている。
火は、現代では電灯も含まれる。
この4つを守り、精神を集中させ、心を穏やかにし、世界の平和、最高神イダ・サンヒャン・ウィディに祈る。
こんな崇高な気持ちになれない私は、痛切に門外漢を感じる日である。
4つの禁止事項は、バリ島にいるすべての人に義務づけられる。
数年前から、テレビ、ラジオの配信もストップされた。
信じられないのは、観光で経済が成り立っている島なのに、この日、国際線の航空便を含む島内すべての交通機関が閉鎖される。
昨年(2018年)からは、インターネットも使えなくなった。
思い切った政策だが、良いことにはバリ島民は反対しない。
ニュピは、貴重な「サイレント・デー」として、世界中から注目されている。
ついでに新しい情報。
ゴミの問題は、バリでも深刻。
特に、プラスチックゴミは目を覆いたくなるほど。
今年に入って、スーパーマーケットやコンビニの持ち帰りビニール袋が姿を消した。
エコバックの使用を推進している。
順次、小さな店のビニール袋の使用も禁止されだろう。
ニュピをサコ暦の正月と捉える人がいるが、私は違う考えだ。
バリ人に、新年という概念はないように見受けられる。
本格的な雨期に入る、第7番目の月・サシー・クピトゥから、雨期が終わる、第11番目の月(西暦の4月頃)サシー・ジェスタまでの期間は、体調を壊しやすい時期である。
昔は疫病も流行ったことだろう。
悪いことが起こるのは、悪霊のせいだと考えるバリ人のこと、雨期の終わった時期に、お祓いをしようというわけだ。
日本人的な考えで、言葉を当てはめようとすると、間違いが生ずる。
「ニュピ」は、バリ独特の祭礼「静寂の日」の名称。
ちなみに、ウク暦の最大の祭礼日は「ガルンガン」だが、ガルンガンを、日本的にお盆と考えるにも無理がある。
単純に、210日に一度巡ってくる祭礼日として理解したほうが、私にはしっくりくる。
今年のニュピは、3月7日。
何もできない1日をどう過ごそうか、悩んでいます。
2019年03月05日
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