2020年05月24日

トルコの旅・イスタンブール(2)

イスタンブール訪問は、1970年以来の35年ぶりだ。

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1970年、その時の話を、少ししたい。

ギリシャのアテネからイスタンブールまでは、ヒッチハイクを敢行した。

幹線国道なのに、走っている車の数は少なかった。

長時間待つことが心細くなり、しかたなく大型トラックを止めた。

運転手はフレンドリーで、快適なドライブだった。

突然、トラックが路肩に止まった。

「私は、ここから国道を逸れる。あの灯りがイスタンブールだ!」

運転手の声が聞こえた。

灯りは、歩くには遠すぎる。

「家に寄って行け」と執拗に誘ってくる。

予感はしていたが、やっぱりホモだったか。

旅行中、何度もホモダチになる危険に遭遇したが切り抜けてきた。

ここで降ろされるのも困る。

ホモの餌食になるか、徒歩で走破するかの、残酷な二者選択を迫られた。

男色趣味とわかっていて、ついて行くわけにもいくまい。

結果、私は国道の途中で落とされた。

トラックは、無情にも脇道を曲がっていった。

あまりにもショックだったのか、どうやってイスタンブールにたどり着いたか、記憶がない。

プディング・ショップに寄った。

ヒッピーと呼ばれた旅行者たちが、情報交換のために必ず訪れる店だ。

(ヒッピー=トルコ語で ”恋する者” の意味)

どろどろのトルコ・コーヒーを啜りながら、ブルー・モスクを見上げた。

当時、トルコのコーヒー(カフヴェ)は、粉が細かく、味も濃い。

直接、粉を溶かして飲む。

飲み終えた時には。どろりとした軟泥状のものが、カップの底に残る。

桟橋で食べた、パンに焼き魚を挟んだサンドイッチは美味しかった。

グランド・バザールでトルコ石とカメラを物物交換した。

長姉の旦那に餞別でもらった一眼レフ・カメラは、旅の途中で壊れていた。

日本から長兄が送ってきた綺麗に写っている家族写真を見せると、商人は信用した。

ちょっとした詐欺行為に心が痛んだが、残り少なくなったお金は使いたくなかった。

安宿の鍵が壊れていて困ったことなどが、断続的に思い出される。


このあと、テヘラン(イラン)に向かう鉄道に乗るのだが、この記憶も少ない。

列車は、猛烈に込んでいた。

ボックス席に乗り合わせた青年は、拳銃を携帯した軍人だった。

どことなく危険な風貌。

遠慮なく、ジロジロと見つめてくる。

怒らせては大変だと、手にしていたトイレットペーパーをちぎって渡した。

青年は、ペーパーを鼻に近づけ匂いを嗅いだ。

香水の香るペーパーに感動したのか、顔がほころんだ。

ヨーロッパのカフェで失敬してきたトイレットペーパーが、こんなところで役に立つとは。

群がって来た乗客に配ると、瞬く間に一本がなくなった。

ピンクのトイレットペーパーの端切れを大事そうにして、匂いを嗅いでいる姿が滑稽だった。

トイレットペーパーを使わない民族なのか。

強烈な記憶がひとつある。

列車が止まった。

窓外を除くと、屋根のない人気のない、一本のプラットホームだった。

座り疲れた身体をほぐそうと、プラットホームに降りた。

数人が凝視する先を、誘われるように見た。

列車の下に、人がうずくまっている。

上半身が、こちらを見た。

事故だ、早く病院に連絡を。

私は「ホスピタル!ホスピタル!」と連呼した。

近くにいた男性が「近くに病院はない」短く答えた。

栄養失調の人が風圧で線路に落ちるのは、よくあることだと言う。

しばらくして、電車は出発した。

切断された身体を残して。

節約旅行に危険は付き物だと心得てはいるが、あらためて心を引き締めた記憶がある。

イスタンブールからバンコクまでは、1万円の旅だった。

1ドル365円の時代だ。

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35年ぶりに再訪したイスタンブールは、すっかり変貌して都会になっていた。

北ヨーロッパに古くからある街並に似ている。

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バックパックを背負っての宿探しは大変だった。

ウブドから来た節約生活者にとっては、宿泊費は割高に感じる。

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ホテルの窓からの景色

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プディング・ショップは、立派なレストランになっていた

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パフォーマンスをするアイスクリーム店

トルコ・コーヒーの記憶は美味しく思い出されていたが、今回飲んでみて、決して2杯目を頼もうとは思わない味だった。

1990年「寝床を探す旅」に、イスタンブールも候補地の一つだった。

バリ島ウブドを選択したのは、正解だったかもしれないと痛感している。

posted by ito-san at 15:12| Comment(0) | トルコの旅 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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