この日は、歩道に張り出して営業しているレストランで夕食をした。
隣のテーブルで食事をしていたグループの一人に、声を掛けられた。
流暢な日本語だった。
キリムのお店を経営している、オメール君。
恋人は日本人だという。
カッパドキアに行く予定だと話すと「実家で割礼儀礼があるから来ないか」と誘われた。
そうトルコは、イスラム圏だ。
割礼儀礼については賛成できかねるが、慣習としては見てみたい気もする。
オメール君の実家は、カッパドキアから少し足をのばすだけで行けるという。
急ぐわけでも予定のある旅でもないので、儀礼のある日を聞いた。
カッパドキヤに滞在した後に、訪れると約束をした。
長距離バスの買えるツーリストオフィスを紹介してくれた。
行き先は、トルコ中南部の街・タシュジュ(この時は、そう思っていた)。
長距離バスは、ギョレメから南下する。
ガイドブック「地球の歩き方・トルコ編」を携帯しているので、詳しく知ることができた。
これを書いている手元にガイドブックがないので、曖昧な記憶で記載している。
ガイドブックを参考に、車窓の町々を確認する。
街の解説や見どころなどを読んだ。
メルスィン(Mersin)のバスターミナルでローカル・バスを乗り換えた。
バスは通勤客を乗降しながら、いくつかの街を通り抜ける。
タシュジュは途中下車だった。
私の乗ってきバスは、先の目的地に向けて急いだ。
降車した人の流れは、幹線道路を外れていく。
その流れに従って進むと、ロータリーに出た。
見回すと、商店の少ない閑散とした港街だった。
ロータリーの向こうには、大きな船が見えた。
タシュジュは、地中海の最東端にある街。
船着き場には、キプロス島行きの案内が出ている。
迎えのオメール君の姿は見えない。
心細くなってくる。
しばらくして、オメール君から携帯に電話がかかった。
「今、どこにいるの?」
「タシュジュ」と答えると「違う、タルスス(Tarsus)だよ」と言われた。
通り過ぎた街だ。
どうやら私は、待ち合わせの街を間違えていたようだ。
タルススは、メルスィンの手前30キロ地点にある。
タシュジュは90キロほど先。
オメール君は、メルスィンのバスターミナルで一時間も待っていてくれたようだ。
今から、メルスィンに戻るのは時間が遅すぎる。
明日、早朝のバスでメルスィンに戻る約束をした。
今夜は、この街に泊まることになる。
視界に、宿らしいものは見当たらない。
ロータリー前にあるホテルは、時間が遅かったのか閉まっていた。
あたりはすでに暗い。
もう、決断するしかない。
ロータリーの芝の上で、一夜を明かすことに決めた。
芝生には、出航待ち人が横になっている。
野宿には、最適な場所だ。
こんな時には、昔取った杵柄が役に立つ。
と言っても、ホームレスをしていたわけではありませんよ。
ナホトカ航路発で帰路シルクロードという旅の経験者だからといって、自慢できる杵柄を持っているわけではない。
アムステルダムでは、川に繋留されていた船に潜り込んで寝た。
早朝、船主に追い出された。
チューリッヒでは、駅前で寝た。
ホームレスのおじさんたちは、地下から温風の出るマンホール近くに寝場所を与えてくれた。
まだまだあるが、こんなところにしておこう。
だからといって、57歳の親父が異国で野宿はどんなもんですか? と自問する。
そんなことは御構い無しで、スヤスヤと快適な眠りについている。
2020年05月31日
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