ダドンと最後の晩餐・2007年04月22日
夕方、*ブンブン・カフェに顔を出すと*ダドンがいた。
「ウー、ウー」と、いつものように、しかめっ面をして、理解できない言葉を発している。
どうやら、来るのが遅いと言っているようだ。
私は、いつものように、とぼける。
ダドンは黒いビニール袋を手にして、これは良い匂いがすると袋を鼻に持っていく。
袋には、噛みタバコが入っている。
噛みタバコを私に手渡すと、ダドンは、もうひとつのビニール袋から「蒸かし芋」を出した。
美味しいから喰えと、芋を掴む。
私は、噛みタバコをするから、あとで食べると断った。
ダドンは、*ボレーの準備を始めた。
私はそれを見て、短パンにはき替え上半身裸になった。
ボレーを塗り終わると、今度は*シリーを作ってくれた。
いつものように、時間は経過していった。
ブンブンの契約は、5月1日で切れる。
店はすでに昨年から閉店しているが、完全閉鎖は4月いっぱいだ。
今日、ワルン・ビアビアの椅子補修がすべて終わった。
私がブンブンに来るのは、今夜が最後になるだろう。
ボレーを落としながらのマッサージが始まった。
マッサージは、いつもになく丁寧で真剣だ。
背中で聞こえるダドンの息づかいが、寂しげだった。
どことなく目頭に力がなかったように感じたのは、私の感傷か。
お祈りの時に使う中国古銭の束を、必ず、家に持って帰るようにとジェスチャーで指示した。
日に日に、荷物が無くなっていくブンブンを見て、ダドンは、閉店に気がついていたのだろう。
ダドンの前に椅子を近づけ、私は「蒸かし芋」をほおばった。
私の美味しいという仕草に、ダドンの顔がほころんでいた。
これが、最後の晩餐になってしまった。
17年前、ロジャーズ・ホームステイに突然現れたダドンは「*魔法使いダドン」として私の記憶に残った。
その後、影武者に現れ、私がブンブンに移動すると、今度はブンブンに現れるようになった。
所在を教えたわけではないが、いつの間にかダドンは、私の側にいた。
ブンブンが無くなれば、ダドンの気晴らしの場がひとつ消えてしまう。
健康が気がかりだが、縁があれば、また、どこかで会えるだろう。
最後となるかもしれない小遣いを渡した。
「さようなら、ダドン」

ダドンを中心に、右に水野さん、左に洋祐君
*ブンブン・カフェ:https://informationcenter-apa.com/gt_bumbung.html
*ダドン:平民カーストのバリ語で「お婆ちゃん」
*ボレー:https://informationcenter-apa.com/gt_boreh.html
*シリー:https://informationcenter-apa.com/gt_sirih.html
*魔法使いダドンとの出会いは、こちらを読んでください。
「極楽通信・UBUD」ウブドに沈没『 魔法使いのおばあちゃん現れる』https://informationcenter-apa.com/ubud-chinbotu23.html