一匹が吠えると、次から次へと犬は門前に現れて吠える。
犬は、テリトリーがあるかのように飼い家の前で吠えて、道行く人を威嚇する。
何匹かで吠えたてて向かってきたり、自転車やバイクで通る人を追いかけたりすることもある。
通り過ぎれば、吠えるのを止める。
バリの犬は、吠えるだけで決して噛みつかないと言われているが、そんなことはない。
実際に噛まれた人もいる。ひとりの時に囲まれると、結構怖い。
犬は、インドネシア語でアンジン(Anjing)、バリ語ではチチン(Cicin)、バリ語の丁寧語でアス(Asu)と言う。
子犬はバリ語でクルッ(Kuluk)と呼ばれる。
バリ犬のルーツは、小さく逞しい身体が特徴のカチャン(豆)犬だと言われている。
バリ島で人間の営みが始まると同じ頃から、カチャン犬は人間と共存していたようだ。

もう一種類は、バリ島中央部バトゥール周辺に生息する毛足の長い犬キンタマーニ犬。
12世紀から16世紀にかけてバトゥール地域にやってきた中国人が持ち込んだチャウチャウ犬とカチャン犬の混血したのが起源だと言われる。
この他に、バリ・ダルメシアン犬と呼ばれる、白い毛並みに黒い斑点を持った犬がいる。
この犬は、クタに居住していたデンマーク人、ヨハンセン・ランゲ(1839年に居住、1856年死去)がバリに持ち込んだダルメシアン犬がカチャン犬と混血だとされる。
インドネシアへの犬の持ち込みは、厳格な検疫手続きと輸入許可の取得が必須であり、完全に禁止されているわけではない。
しかし、バリ島は狂犬病発生地域と指定されているため、犬の持ち込みには厳しい制限があるようだ。
バリには、愛犬家にとって辛い慣習がある。
バリ人の信仰するヒンドゥー・ダルモの儀礼には、赤茶色の毛並みに、鼻先と尻尾の先が黒い子犬が神への生け贄として捧げられるのだ。
犬を使った諺を調べてみた。
「インドネシア語ことわざ用語辞典」(大学書院)から、特に代表的なものを4つ紹介する。
1)"Seperti anjing dengan kucing"「犬と猫のようだ」(犬猿の仲)
2)"Seperti anjing berebut tulang"「骨を奪い合う犬のようだ」(財産を奪い合う欲張りな人)
3)"Bagai anjing menyalak di ekor gajah"「犬が象の尾に吠えるようだ」(負け犬の遠吠え)
4)"Anjing menyalak tak akan menggigit"「吠える犬は噛みつかない」
「極楽通信・UBUD」34「バリの犬(Anjing)」
https://informationcenter-apa.com/gt_anjing.html